愛菜レストラン誕生秘話

 

 

愛菜レストラン外観DSC_00602016年10月、スーパー・フレッシェルの一角に、季美の森初となるレストラン、『愛菜レストラン』が誕生した。

住民ならご存じの方も多いだろうが、『愛菜レストラン』は飲食業の運営に関してはまったくの素人である住民有志がゼロから作り上げ、調理や給仕も自分たちで行っているユニークなレストラン。しかも食事だけを目的とするのではなく、ときには音楽のライブ演奏が聴け、ときには絵画の展示スペースやタウンミーティングの場になるなど、幅広く活用できるよう設計されている。「街の人々のコミュニケーションの場を作りたい」という発想から生まれたからだ。

レストランの代表である前田周子さん、副代表の小池信雄さんに、開業までのいきさつやレストランへの想いを伺った。

 

 

 

 

住民の3つの要望を

同時に叶えられるのが、

レストランだった

話はレストラン開業の3年半前にさかのぼる。2013年7月、季美の森の中に『スマイル季美の森』という住民有志の会が立ち上げられた。宅地開発から20年経ち、改めて街の将来や自分たちの暮らしの今後について考えようという趣旨の会だ。メンバー約40名の意見は、16項目に集約された。中でも要望が強かったのが、「住民同士がコミュニケーションできる楽しいスペースがほしい」「スーパー・フレッシェルを元気にしたい」「自分たちの手で安全安心な米作りをしたい」の3点だった。

『スマイル季美の森』の代表である前田さんは、この3つをすべて実現できる形としてレストランを思い描いた。米や野菜は住民自らが育てた田畑からオーガニックなものを、その他の食材はスーパー・フレッシェルから調達する。そして一人で食事に行ったとしても、誰かしら知り合いに会える。そんなコミュニケーションの場になるレストランだ。

米作りについては2013年のうちにさっそく小池さんを隊長に『田んぼ隊』が結成され、季美の森から4~5キロ南下した南玉地区に田んぼを借り、無農薬の『季美の森米』を作り始める。野菜づくりに関しては、季美の森小学校裏手の畑でまずベースとなる土づくりから着手し、2017年春、待望のオーガニック野菜が初収穫できる予定だ。またスーパー・フレッシェルを元気にするためのイベントとして、ビアガーデンやコストコから仕入れた商品を再販するイベントを定期的に開催し始めた。これらのイベントは、レストラン開業という目標に向けてスマイルのメンバーの気持ちを一つにする役割も果たした。

着々と準備が整う中、前田さんらがレストランの土地を探し始めたのが2015年秋のこと。しかし半年にわたって候補地を検討するも、なかなか条件面で折り合う土地がない。そんなとき「スーパー・フレッシェルの中にレストランを作ってはどうだろう?」という斬新なアイデアが生まれた。フレッシェル社長にレストランの構想を相談すると、自身も店舗の一部をイートインスペースに改装するアイデアを温めていた社長は即断で賛成。ただちに売場をコンパクトに再構成し、店の1/4のスペースをレストランに貸してくれることになった。こうして、16年7月から厨房の新設とフロアの内装工事が始まり、10月オープンとなった。

スマイル季美の森のメンバーの中には、起業に詳しい人、公的な手続きに詳しい人、経理や広報のプロなど多彩な人材が揃っており、課題が浮上するたびにいろいろな知恵をもらいながらプロジェクトを進めたという。

 

資金はどうやって?

なぜシェフがいない?

近場に外食できる店がほとんどない地域のため、「季美の森にレストランがあったら良いのに…」と思っていた住民は相当数いたはずだ。しかし、それを自ら実行に移すというのは並大抵の覚悟ではない。資金の工面や開業してからの運営といった現実的な問題に直面するからだ。愛菜レストランの場合、これらの問題をどうクリアしたのだろう。

資金について小池さんが説明する。「当初は有志から数十万ずつ集めるといった積み上げ方式も考えたんだけど、それだと大勢の出資者の意見を集約するのが難しくなる。結局、前田さん個人が資金を半分出し、組織を社団法人化して残りの半分は政策金融公庫でローンを組みました」。

資金を出す気持ちになった背景を、前田さんは次のように話す。

「貯金がわりに持っていたゴルフ会員権を換金して資金にしたの。老人ホームの入居費用のつもりだったんだけど、介護付きマンションに入居した友人の話を聞くうちに、自分は施設に入るのはやめようと思って。施設のサービスに慣れてしまうと、人は動かなくなってしまう。それでいて、自分が食べたいと思う食事が食べられるわけではない。だから施設には頼らず、いくつになっても季美の森で友だちに囲まれ、一緒に働きながら過ごすのが一番良いことだと思ったの。それをスタートするなら今だ、とも。お金の使い方としては最高だと思うのよ」。

「それにしても、大きな決断ですよね」と水を向けると、「思い切りの良さは、生来のものかもしれないわ」と笑う。

運営については、プロのシェフを探して店を任せる発想はなく、はじめからスマイル季美の森のメンバーが家庭料理を提供する形を考えていたという。

「住民の食生活の一助にすることを目的としているから、ここで出すのは家庭料理。プロがいないとできないだろうという考え自体が、僕らにはなかったんだ。レストラン開業前にビアガーデンやコストコデーといったイベントを積み重ね、小規模ながら仕入れと販売のトレーニングをやってきたのも良かった。あれで商売の勘もついてきて、腹のくくり方もできたんだと思う」と小池さん。

前田さんも「オープンして、普段から美味しいものを召し上がっている人に『プロにも勝る』とおっしゃっていただき、この路線で良かったのだと手応えを感じました」と続ける。

食を通じて、次世代へと

街づくりをつなぐレストラン

 

愛菜レストランは10のコンセプトを掲げているが(文末を参照)、その中に「若い人たちの仲間づくりができます」「子どもたちが大人になった時、思い出に残るレストランです」という項目がある。レストランには、街づくりを次世代につなげたいという前田さんの強い願いも込められている。

カレーDSC_5993

「働いている世代のお父さん同士が土日に飲んで話せる場所になれば良いな、という想いもあります。今まで季美の森にはそういう場所がなかったんですよね。自治会などで知り合った人たちが気軽に飲みに行く場があると、話もより発展するでしょう? また子どもたちにはできるだけ化学調味料に頼らない自然で美味しいものを食べてほしいから、その役割も果たしたいのです」。

世代を超えて誰もが気軽に来られるレストランをめざし、シニアボランティアに加え、お母さん世代のパートや学生のアルバイトも積極的に受け入れている。

最後にこれまで活動してきた感想と今後の抱負を伺った。

「レストランをお手伝いいただいている方の多くは、私のゴルフ仲間です。20年間季美の森に住んできた蓄積、人とのつながりがあってできたことだと、皆さんに感謝しています。スマイル季美の森の立ち上げから約4年、ずっと走り続けてきましたが、その間、体も動かし、頭も動かしたおかげで、頭の回転が速くなってきたように思います。一日家でテレビを見て過ごしている方がいらっしゃったら、ぜひおしゃべりをしに愛菜レストランに来てください。歩いて来れば体を動かすことにもなります。そのうち菜園や米作りのお手伝いをしてくだされば、さらに健康的な生活が送れるようになると思います。今後も私たちはいろいろなことを発信し続けていきます」(前田さん)。

「レストランは作ってゴールではなく、これからがスタート。家庭料理を出している中から、名物メニューを育てていきたいですね。それと、体を動かすには、やらざるを得ない状況を作るのが一番。米作りや野菜作りは、次々とやらざるを得ない作業があるからさぼることができず、オススメです。安全・安心は愛菜レストランの要なので、今後どこまで自分たちの手で無農薬野菜ができるか挑戦していきます」(小池さん)。

人と人をつなぐことでコミュニティの絆を強くし、人とオーガニックな田畑をつなぐことでより健康的で豊かな生活へと誘ってくれる愛菜レストラン。今後もその動きに目が離せません。

 

愛菜レストラン CONCEPT

 

1.美味しい食事ができます

2.安心・安全な食材を使います

3.美味しい生ビールが飲めます

4.音楽とともにあります

5.いろいろな集い、時にはエンタテイメントを提供します

6.一人でも、中に入れば誰か知っている人がいます

7.30~40人のパーティができます

8.絵画展、レコード鑑賞、セミナーができます

9.若い人たちの仲間づくりができます

10.子どもたちが大人になった時、思い出に残るレストランです

 

 

愛菜レストラン INFORMATION

 

定休日 月曜・木曜(貸切営業承ります)

営業時間 ランチ 11:30-13:30

             ディナー 17:00-20:00

ご予約 0475-51-5385